スタートの直前、村瀬は長い時間空を見上げていた。今にも泣き出しそうな高山の空は、今シーズン初めてのレインコンディションでのラリーを予感させる。多くのエントラントがレインタイヤを選択し、スタートに備えていた。我々のチームもスタート前にレインタイヤに換装し、スタートを待つ。スタート直前、ほんの10分前に雲の流れを見つめていた村瀬がチーフメカニックの大島に言った。「大島さん、ドライタイヤに交換してください。ハードコンパウンドで勝負したい」 レインタイヤは発熱が早く、グリップには優れるがタイムを削るのには適していない。しかし天候の読みが外れれば、ハードコンパウンドのタイヤには厳しい路面となる。
ドライバーの決断に応えサービスクルーはタイヤ交換をスタートの3分前に完了し、最初のステージへマシンを送り出す。しかし、意に反して高山の空は大粒の雨をコースに降り注いで来た。最初のステージからフルアタックを敢行した村瀬はステージ前半で大きくアンダーステアを出し、あやうくクラッシュ寸前の状態から脱するためサイドブレーキを引きコース上で激しくスピン。マシンにはまったくダメージは無かったが、25秒ものタイムロスを喫し、苦しいスタートとなる。
しかし、村瀬も宮部も勝負をあきらめてはいない。ビギニングステージでのスピンはかえってクルーのチャレンジングスピリットに火をつけた。続くSS2、SS3、SS4で村瀬はクラスベストタイムを連発。失われたタイムを取り戻していく。ギャラリーステージのあとに迎えた「駄吉林道」を下るダウンヒルステージSS7では、総合3位のJN4クラス勢を上回るタイムを記録し首位を奪還することに成功。いったんは総合19位まで落ちたポジションを総合9位、クラス1位まで取り返し、2日目のステージへ駒を進める。
初日の最終ステージで最大のライバルである曽根選手がエンジンブローにより戦線を離脱。インテグラを駆る2位の香川選手と70秒のあまりのアドバンテージを持ったまま最初のステージSS9
「無数河線」からステージは始まった。2日目に残されたステージは4つ、走行距離は26キロあまり。村瀬は攻めの姿勢を崩さず、ステージを経るごとにアドバンテージを広げ、最終的には2位に1分27秒の大差をつけてラリーハイランドマスターズを制した。同時に最終戦を待たずして全日本ラリー選手権のシリーズタイトルも獲得。ドライバーズ、コドライバーズ両方のシリーズチャンピオンを決める最高の結果をもたらしてくれた。
報告:武田 |